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銀行のリスクを考える

シリコンバレー銀行は救済

シリコンバレー銀行の破綻のニュースが世界中で話題となりました。本日(月曜日)までに預金者を保護しないと、連鎖倒産(システミック・リスク)の可能性があると考えられていました。ステーブルコインであるUSDCを運営するCircle社の信用問題にも広がりUSDC価格は下がりました。
またシリコンバレーのスタートアップの給料支払が滞る可能性も指摘されていました。

預金者については、ペイオフによって25万ドルまでは補償されますが、それ以上は一般債権化されて、管財人が銀行の保有する資産を売却して決まった配当率のみが返却されるのが通常のプロセスです。

そんな中、FRBが銀行タームファンディングプログラム(BTFP)を導入し、シリコンバレー銀行の預金者は全額救済する方針が決まったようです。

FRBによると、新たに導入するのは「銀行タームファンディングプログラム(BTFP)」。金融機関を対象に、米国債や住宅ローン担保証券を担保として、最長1年の融資をする。政府の基金から最大250億ドルを利用できるようにする。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN130AL0T10C23A3000000/

私はアメリカ政府がシリコンバレー銀行を救済すると考えていました。一時的な流動性が確保されれば、シリコンバレー銀行のスポンサーが見つかると考えたからです。ワラントだと予想しましたが、新しいスキーム(BTFP)が発表されました。


ジャンプリスク

さて、原発を運用する電力会社や銀行は、何もなければ儲かるが、突発的事象によって大きく損するビジネスモデルです。問題が起こると連鎖倒産を防止したり国民の生活を保護するためにToo Big to Fail(大きすぎて潰せない)という議論が発生します。そして政府(納税者)が損失を負担することがあります。会社がプットオプションをショートして儲けているような状況です。もっと正確に言うと下方ジャンプリスクです。

こういったリスクを取って儲けている事業は他の事業と比較して公平と言えるでしょうか?

会社自体が仕組み債であるような状況です。そして、このようなジャンプリスクはヘッジ可能でしょうか?


プットオプション

オプション取引のひとつで、特定の原資産について、一定の期日(期間内)に、あらかじめ決められた数量を、あらかじめ決められた価格で、「売る権利」のこと。
プットオプションの買い手はオプション料と引き換えにオプションの権利を得ることができます。売り手はオプション料を受け取る代わりに買い手が権利行使した場合に応じる義務が発生します。

https://www.daiwa.jp/glossary/YST1618.html


突発的リスクは予見不可能

自然災害を予見するのは難しいし、銀行の取り付け騒ぎは人の心理に大きく影響しています。同じリスクを取っているA銀行とB銀行があったとして、A銀行だけに取り付け騒ぎが起こる状況が想像できます。これら自然や人間心理に依存する突発的リスクを評価する合理的な手法は確立されていません。

保有資産にある程度流動性がある場合は、一時的なショックを吸収するような手法が有効です。今回の銀行タームファンディングプログラム(BTFP)のように、一時的な資金の流動性の欠如を補填する仕組みは一つのリスクヘッジ手法です。これは債務超過が一時的であると考えられる場合です。

では、恒久的な債務超過が予想されるような突発的リスクはどのようにヘッジすべきでしょうか?これはリスク・マネジメントが難しく運に依存するということで、保険に入るのが可能なリスクヘッジなのだと思います。

もちろん、銀行が過大なリスクを取った結果、破綻することは自己責任とも言えるかもしれませんが、どんな優秀な経営者でも予見不可能な事象について経営者や株主がどの程度の責任を取るべきかは議論の余地があると考えています。なぜなら個人が取れる責任には限界があるからです。東電の役員は13兆円の損害賠償請求されましたが、当然ですが、支払える金額ではありません。つまり事業に失敗した時のリスクは納税者に転嫁されます。


リスク・リターンは公平に

一方で、このようにジャンプリスクを取りながら平時は高い株主リターンや役職員は高い報酬をもらい、破綻したら他の業者を巻き込み、Too big too failで納税者が損失を負担することは不公平です。

私は予見不可能なジャンプリスクを取っている(取らざるを得ない)ようなインフラ産業においては、ダウンサイドの保障とともにアップサイドを限定すべきだと考えています。

突発的なリスクが納税者の負担にならないように保険を義務付けるべきだと思います。銀行タームファンディングプログラム(BTFP)のような公的な救済措置は、システミック・リスクを防止するのには有効ですが、見えないリスクを納税者に転嫁させています。担保証券が破綻したら納税者の損になるからです。

銀行で言うなら、預金保険料を上げて取り付け騒ぎ等の事象により大きいバッファを確保すべきです。これは公的な資金を使っていません。またCoCo債を義務にして、資本毀損があったら速やかに株主責任を取らせて、預金者を守るような仕組みが事前に準備されているべきだと考えています。

CoCo債
銀行など金融機関が自己資本増強のために発行する転換社債の一種で、発行体の自己資本比率が基準値を下回るなど、偶発的な事象であらかじめ定められた条件に抵触した場合、元本の一部または全部が削減されたり、強制的に普通株に転換される転換社債のこと。リスクが高い代わりに、通常の社債よりも高利回りとなっている。

Contingent convertible bondsを略してCoCo債(ココ債)とも呼ばれる。

https://www.nomura.co.jp/terms/japan/ku/A02729.html


または法人税に加えて、「Too big to fail税」を電力会社や銀行等に課すことも考えられます。これなら納税者に還元があり、突発的リスク時の損失補填に対しての公平性が担保されます。

当然ですが、銀行の役員・社員もフリーライドは許されません。アップサイドの報酬は一部、積み立てられ数年間問題がなかった時に支払われるなどのリスクとリターンの平準化が求められるべきだと考えています。

これら施策は当然資本コストを上昇させ、ROEが下がり株価は上がりにくくなるでしょう。リスクリターンがより債券的な株式になるはずです。Putショート型ビジネスモデルにおいては、納税者を人質にキャリートレードをしてるようなものです。

「儲かったら自分のもの、損したら納税者」は許されません。儲かったら自分のもの、損しても自己責任か、儲かったらみんなのもの、損してもみんなのものが公平です。前者は社会的なコストが増えし、事実上自己責任が取れないのがToo bit to failなので、後者のモデルしか選択肢がないと思います。

私は、プットオプションショートモデル(平時は儲かるが、突発的リスクで大損する)の企業はアップサイドを一部放棄して、突発的リスクに備えるべきだと考えています。それはできるだけ納税者に負担をかけないようにするためです。

銀行のような大きくて潰せない社会インフラ産業には納税者にリスクが移転されないような新しいリスクヘッジの手法が必要だと思います。



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