CBDCとシステミック・リスク
CBDC(中央銀行デジタル通貨)とシステミック・リスク※について考えました。きっかけは楠さんのTwitterでした。少し専門的なので難しいかもしれませんがご容赦ください。
※個別の金融機関の支払不能等や、特定の市場または決済システム等の機能不全が、他の金融機関、他の市場、または金融システム全体に波及するリスクのこと(日本銀行HPより)
①どこまでリテール層がファイナリティーのある決済手段を選好するか
①-A CBDCが現金同等物だとして付利されない場合
理論上は市中銀行の金利とクレジットリスク(信用リスク)を考えて判断すべきですが、リテールは通常時は金融機関のクレジットリスクをほぼ考えないので、金利が高い(もしくはその他銀行サービスが手厚い)預金を選好するかと思います。
①-B CBDCに日銀当座預金金利が付利される場合
日銀当座預金金利がマイナスにもなり得るとすると、①-Aより預金を選好する可能性があがると想定します。プラス金利であったとしても預金金利よりは通常高くならないので、預金を選好するかと。
②物理的制約やソルベンシーリスクがない預金通貨代替財が提供された場合、金融危機の際に何が起こるかを考える
金融危機は、レバレッジプロダクトのアンワインドの連鎖か、信用創造していた銀行の連鎖倒産(もしくは倒産に近く銀行間決済が非常に困難な状況)が主な原因なのかと思います。リテールやプロが持ってるCBDCがどのように中央銀行に対して決済されるかを場合分けして考えてみます。
②-A 銀行が預かっている顧客のCBDCが預金債権として扱われる場合
今と変わらない状況かと思います。「私の預けたCBDCを返せ。」となりますが、CBDCも現金同様一般債権となり全額返却されません。今でも銀行は、銀行送金によって預かったお金とATMで入金した現金を分けて勘定はしていません。
CBDCがソルベンシーリスクがない状況というのは、
②-B リテールやプロの金融機関が日銀当座預金に対して直接決済できる状況
別のNOTEで説明したいと思いますが、この可能性は低いかと思います。
②-C CBDCウォレットが存在して個人が(現金のように)CBDCが管理できる状況(この場合は銀行は一切関係ない)
ビットコインのウォレットを個人が管理するのと似ています。
②-D 銀行がCBDC預かりサービスとして、預金とは別に分別管理され、かつ、倒産隔離されている状況
これは信託銀行がCBDCウォレットの秘密鍵(が存在するとして)を預かっている状況でしょうか?もしくはCBDCが倒産隔離される対象となるような法律がある状況。
これら3つのケースは銀行による信用創造が行われないですし、当然、クレジットリスクも決済リスクもないので金融危機のきっかけにはならないかと思います。
別の視点で考察してみます。金融危機が起こり始めた状況で、リテールやプロがお金を預金として受け取るか、CBDCとして受け取るかの選択肢が与えられているのであれば、当然、ソルベンシーリスクの無いCBDCを選好します。取り付け騒ぎは、クレジットリスクを回避するために預金より現金を選好し、預金を現金に交換する行動です。しかし、銀行バランスシートの資産の部は主に貸し出しであり、すぐに現金化できません。現金が足りなくなり、預金債権の返還請求に応えられなくなります。よって、CBDCであっても金融危機が起こると同様にCBDC取り付け騒ぎが起こるだけです。
CBDCは現金よりも管理・保管コストが低いので、取り付け騒ぎは加速されます。1000億円を現金で引き出し保管するのは大変ですが、CBDCで保管するのは簡単だからです。ただ、銀行は十分なCBDCを保有していないので、先にCBDCが空っぽになるだけで、これは現金と変わりません。
大局的に見ると、結局、システミック・リスクは信用創造やレバレッジの産物なのでCBDCによるシステミック・リスクの減少効果は限定的だと考えています。
※次回(仕事の合間に時間ができたら)CBDCのメリットについて考えてみます。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?