トークンは世界を広げる

ホモデウスとトークンエコノミー

 ホモデウス とその前作 サピエンス全史 は読んだ人も多いと思う。非常に示唆に富んだ素晴らしい本だと思うが、今回はブロックチェーンの応用の一つであるトークンエコノミーに絡めて話をしてみたい。

ホモデウスが教えてくれたこと

 ホモデウスは言う、貨幣が生まれるまでは人類は小規模な数百人程度の集団内では協力しあうことはできたが、国家レベルの規模で協力を行うことはできなかった。しかし貨幣の誕生に伴い国家と呼べる大きさの集団をまとめることができるようになったのだと。

 なぜか。貨幣がなくても普段顔を合わせることができる範囲での協力はできるが、見たこともない人と協力するには何かしらの「信頼」が必要となるからだ。
 遠くの集落と交易を行うことさえ簡単ではなかったのだ。ましてやピラミッドを作るような長期間にわたり多くの人間がかかわるような協力を行うことはできなかった。それには貨幣の登場が必要であった。

 こうして現在の人類社会においては、貨幣という糊によって世界レベルの共同体をつくりあげているわけだ。しかしながら現在社会では急速に「お金」以外の価値観の需要が高まっている。

貨幣とはなんだろうか

 前にも書いたが貨幣が満たすべき要素は以下の2つだ。(法律用語や経済学用語では違うのかもしれない、私の勝手な定義である)
・所有することができ、本人の意思があればかつその時に限り人に渡すことができる。
・上記のことを皆が信じている

 もちろん日本円は上記を満たしているしビットコインも満たしている。しかし違いもある。法律上の扱いが違うというのも大きな点だが、それ以外でも機能上の違いがあるのだ。
 例えばビットコインならマイニングという仕組みがそうだ。マイニングがあるからこそビットコインエコシステムは自律的に維持されている。
 あるいはネムなどではハーベストという仕組みにより、一定量のコインを所有し、取引回数を増やすことがインセンティブになるため、エコシステムが自律的に活性化される。
 このほかにも交換範囲が限られているとか有効期限が設定された貨幣というのも考えられる。商品券などを貨幣と考えればすでに実現されているといえるだろう。もっと複雑な例も考えることができよう。

 改めて考えると、円や法定通貨というのは非常に強力ではあるが、同時に非常に単純でもあるとわかる。そしてその単純さゆえに広く流通し、多くの人の価値観をまとめ上げているのだということに納得する。

トークンの力

 ホモデウスが言うように現在の価値観は多様化している。そしてお金で買えない価値というものも多い。(例のCMも言ってるし)
 そしてそのような「貨幣化」されていない価値観は数百人程度のコミュニティでしか共有することができない。仲間内の評価が他社では役に立たず転職するたびに新しく人間関係を作り直して、再び自分の評価を構築しなおさなければならないのはそういうわけだ。

 これは先史時代のコミュニティに似ている。ただ当の本人はその価値観がコミュニティ外で通用しないことに何の不便も感じていないのかもしれない。そもそもそういうものだと思っているからで逆に通用する世界をしらないからだ。
 だからもしブロックチェーン技術により簡単にコミュニティ内トークンを作り、その結果大きなコミュニティが形成されると大きな変革が起きるだろう。人類が貨幣を発明し国家を形成した時のように。
 そういった価値観には「やさしさ」や「エコ度」といった一般的なものから「マリオカートの熟練度」といった特殊なものまでさまざまなものが考えられる。なんなら個人がトークンを発行しても構わないのだ(その場合大きなコミュニティを形成できる人は限られるだろうが)

 実はフェイスブックの「イイネ!」などはすでにそのような新しいトークンかもしれない。一見貨幣とは違うように見えるが、人に渡すことができないだけでトークンの一種と考えることができる。

スマートコントラクト

 トークンがないと、自分に見える範囲での取引(価値観を得たり、使ったりする行為)によってのみ価値観をやり取りでき、離れた場所ではできない。これは物理的に近い場所というだけでなく時間的にもほぼ同時であるという意味でもある。
 しかしトークンがあれば人々は見ず知らずの他人とでも取引を行うことができるようになる。そのトークンは保存され、時を経て若いときにためておき、将来利用するようなこともできるようになるのだ。

 もちろんこれは簡単に実現できるものではない。トークンはその価値観に合致するときにのみ手に入れられなければならないし、その利用についても価値観に合致しなくてはならない。それがないとトークンを皆が「信頼」しなくなってしまいトークンは価値を失うだろう。
 それはトークンの入手方法であったり、利用時の制限だったりといったルールで表すことができる。言葉で書くと簡単に聞こえるが、こういったルールは複雑になりがちだし意図とは違ってうまく働かないこともしょっちゅうだ。ちゃんと作るには試行錯誤と知識、そして理論が必要だ。

 miyabiではデータ型として普通のKeyValueのほかにAssetTableというデータ型がある。これはトークンを扱うために特化したデータ型で便利な機能が組み込まれている。例えば所有者の署名のチェックや2重払いのチェック、残高のチェックやマイニング(無からコインを生む行為)などの機能のことだ。
 この仕組み使えばすぐにでもコインを利用することができる。そしてもっと複雑なコインが欲しい場合はスマートコントラクトをバインドすればよい。そしてスマートコントラクトに書かれた様々なルールを強制することができる。

トークンエコノミー

 トークンの力はお金の力似ている。コミュニティをまとめ上げるだけでなく、マーケットを通して取引を活性化させるという能力もある。

 歴史が証明しているように計画経済は市場主義経済に敗北した。取引を活性化させるのに中央集権的なコントロールをするというのはうまくいかないのだ。
 代わりに参加者のエゴにゆだね、ゲームのルールに則って利益を得ようと知恵を絞ることが結果としてうまくいくことにつながる。
 もちろんゲームのルールがいい加減だと計画経済よりも悲惨な結果になることもあろうが、総じて市場主義的なほうがうまくいく。

 これはトークンでも同じだ。エコポイントを例にとろう。どんな場合に何ポイントエコポイントがもらえるのか、を詳細に決めてしまうのが計画経済的な運用だ。この方法だと高い確率でシステムの裏をかく人が出てきて本来の「エコ度」とはかけはなれたポイントを得ることが起きえる。またその行為を行った人だけがエコポイントを手に入れるので、そのために便宜を図った人には1ポイントも入らない、となってしまう。これでは全体効率化は起きない。

 逆にエコポイントが発生する最終行為に対してだけポイントを与えることにし、その受領者はエコポイントを得るために他者にエコポイントを支払う、という運用にするということもできる。
 エコポイントが欲しい人同士で競争し、最も効率的な方法を考えた参加者が多くのエコポイントを少ないコストで手に入れる。だから皆知恵を絞り効率的にエコポイントを集めようとするのだ。この関係は再帰的に続き、最終的にコミュニティ全体で最適な結果が得られることだろう。 

まとめ

 少し無理やり感はあったと思うが、ホモデウスを読んで最初に思ったのはこのことだった。
 ブロックチェーンが簡単にトークンを扱うことができ、かつスマートコントラクトで細かなルールを強制できるのであれば、今は小さなコミュニテイーが大きくなり今では想像のできない未来がやってくる、というのは歴史の必然ではないか。

 きっとホモデウスの作者がブロックチェーンについて詳しかったら同じことを書いていたのではないだろうか?(願望)

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