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テザーのパンドラの箱が開かれる

日経新聞の一面で取り上げられるまで有名になったステーブルコイン。(価格が米ドルと一致するように設計された仮想通貨(トークン))そしてその代表であるテザー社が発行するUSDT。その発行総額はなんと15,726,312,650 USDT=(約1.6兆円)にもなります。

今回テザー社に財務諸表の開示命令が出されました。今まで触れることができなかったパンドラの箱である、テザーの資産管理がどのようになっているのかが業界が一番興味があるところだと思います。

今回はテザーの疑問に答え、どう解釈されるのかを分析してみました。

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訴訟事件摘要書


価格が安定しているステーブルコイン

USDTはステーブルコインなので価格は非常に安定しており、米ドルの99.8%から100.4%程度で取引されています。

https://jp.tradingview.com/symbols/USDTUSD/

命令を出したNYAGはNew York State Attorney Generalの略です。NYで仮想通貨取引所を運営する場合はNYDFSが正式な監督局ですが、NYAGも監督します。

https://coinpost.jp/?p=183725

ステーブルコインの肝は、いかなる場合でも顧客の米ドルの返還請求に応えられるかどうかです。それができないとすると取り付け騒ぎになりえます。そして最後にババを引いた顧客が回収できずに損をすることになります。


A テザーが証券認定された場合

米ドルと短期の米国債等で運用している商品はMMFと呼ばれています。この場合は米国債を換金すれば、顧客の引き出し要求に応えられます。リーマンショックの時に米国債の価格が下がってMMFが元本割れしたことがありますが大炎上しました。

ただ、テザー社は証券ブローカーのライセンスを持っていないので、証券認定されると法的には別の観点で大問題になるかと思います。ファンドの資産があるとすると、顧客に全額を返金してクローズでしょうか。証券法違反は刑事罰の可能性があります。


B テザーが仮想通貨の場合

米国法の場合、会社が仮想通貨を発行することについて明確な法的根拠がありません。これは大きく2つのケースがあります。

①テザー社が顧客から受け取った米ドル(テザー社の債務)を、マーケティングや給料などで流用した場合

これは会社が資金調達を行っておりICOやIEOと呼ばれます。顧客に返済する分の米ドルはすでになくなっています。これは債権での資金調達に似ていて、マーケティングによって事業を拡大して、後ほど顧客に返済するという意味合いが強くなります。社債を発行していると解釈されるとAの可能性が上がります。

顧客への返済義務がない場合(債務性がない)は、株に近くになりますが、ステーブルコインは顧客がUSDTを持っていくとUSDに交換してもらえる義務を追っているからこそ、価格が安定するロジックのはずです。USDTに債務性がない仮定すると価格は非常に不安定になります。


では、ICO・IEOと判断されるとどうでしょうか?


これはTelegram裁判が有名です。「未登録の有価証券の販売にあたる」かどうかが論点になるので、やはりAに帰着します。TelegramはGRAMの実運用まで行っておらず、顧客に返金することで米国当局であるSECと和解しております。テザー社の場合は、実運用を行っているので和解まで持っていけるのか、どのような判定がされるのかは予想するのが難しそうです。

https://hedge.guide/news/telegram-sec-settlement-bc202006.html


②テザー社が顧客から受け取った米ドル(テザー社の債務)を、保全している場合

多くの人はこれを期待しているかと。その証拠にUSDTの価格は維持されています。そしてテザー発行額の全額が米ドルで信託保全されているのであれば一安心です。顧客の返還要求にいつでも応えられます。

では、会社の主張である一部別の資産で運用している場合はどうでしょうか?

これが米国債であるならMMFに近くなるので、先ほど述べた理屈になり元本割れしないのであれば大きな問題にはなりづらそうです。ただしUSDTの価格はファンドの現在価値にリンクすると考えられ、米国金利が上がるとUSDTの価格は下がります。

一部資産が株や高リスク資産であった場合は、より投資信託に近くなります。この場合はステーブルコインとは言えないでしょう。顧客はファンドの受益権を買っているのと同じです。株の時価に左右されます。

資産負債


テザー社は信用創造を行っているのか?

信用創造とは、中央銀行が発行する通貨(M1:銀行券+当座預金)に対して、銀行等が貸し出しを通じてその発行額以上のお金(預金債権)を流通させる行為です。

例えば、会社Aが会社Bにお金を貸します。

会社Aには預金債権という会社Bに対する資産が残りながら、別の会社Bは現金を取得することができます。この現金は会社Bにとっての資産です。世の中に存在する資産が2倍になります。(現金の量は一定です。)このように銀行に限らず貸し出しを行うと自動的に信用創造されます。

そうなるとテザー社が兄弟会社や他の会社に顧客から預かった米ドルを貸し付けていれば信用創造していると考えられます。

テザー社は兄弟会社であるBitfinexと関連する8.5億ドルの不正融資疑惑がニュースになっております。

https://coinpost.jp/?p=82807

この状態では、テザー社が資産を持っている(兄弟会社に対する貸出債権)と主張しても、兄弟会社が倒産してしまえば貸出債権は回収できません。兄弟会社はマーケティングや給料などで自由にお金が使えるとすると、テザー社の顧客はUSDTを通じて間接的に兄弟会社にお金を貸していることになります。

テザー社の収益モデル

おそらくテザー社は預かっている米ドル=157億ドル(約1.6兆円)運用益を売上としているのではないかと推察しております。主に米ドルの金利です。米国は短期金利でも0.11%あります。これだけでも約17億円になります。米ドルの長期金利は中央銀行の金融政策によって3%程度から0.6%まで直近は大幅に下がっております。ただ、テザー社が過去に定期預金などで運営していた可能性もあります。既存通貨(FIAT)の信頼毀損によってテザーの発行残高は直近に大きく増やしております。平均で4000億円くらいを、仮に1.5%で定期預金できていると、年間で60億円もの金利収入が複数年に渡って入ることになります。

https://ycharts.com/indicators/us_longterm_interest_rates

USDTの適正価格は?

ここで疑問に思いませんか?

金利がつくUSDと金利がつかないUSDTは同じ価値なのでしょうか?同じ効用であれば、金利がついたほうが良いのでUSDの方がいいですよね?本来であればUSDTはUSDに対して金利分だけ徐々に価格が下がっていくはずです。

なぜなら金利を顧客に還元しているのであれば良いですが、金利分はテザー社の売上になっていると考えられます。

しかし金利がつかなくても人々はUSDTを購入します。それは、仮想通貨である利便性を享受したいと考えているからです。これは仮想通貨の本源的価値とは何か?を紐解くヒントになりそうです。

それでもなお多くの人が1USDT=1USDと考えていますが、そうではありません。金利は享受できずテザー社の倒産リスクがあり、そして価格に上方硬直性があるのです。私は投資銀行のトレーダーでしたが、USDTが空売りできるのであれば、空売りしていると思います。負けなしのポジションです。

USDTのいくらが適正かと考えると、テザー社が持っている資産の量に比例するかと思います。普通はこのような会社全体のリスクから隔離させるために、特別目的会社(SPC)などを設立して、会社が倒産しても顧客資産が守られるようにします。そうできない場合は、銀行、証券や日本の暗号資産交換業者のように資本規制がされます。

人々の関心が、テザー社が持っている資産であることは当然ですね。


会社の信頼がトークンの信頼

ビットコインに限らず多くの仮想通貨は非中央集権と呼ばれ、発行体が存在しません。なので会社の信用に価格が左右されません。しかし、ステーブルコインやICO・IEOなど一定のサービスに紐付いて顧客に対する義務を追っている仮想通貨は運営会社の信頼が非常に重要です。


テザー社が顧客の信頼を裏切った(つまり、いかなる場合でも米ドルの払い出し要求に応えることができない)場合は、USDTの価値は大幅に毀損されるでしょう。そしてそれはステーブルコイン業界全般に同じように懐疑心が広がり多くのステーブルコインの暴落を伴います。そして、海外ではFIATを扱うことができない仮想通貨取引所が存在します。それは銀行口座の開設ができない。仮想通貨ライセンスを取得できないなどの理由です。それらの取引所はUSDTなどのステーブルコインを基軸通貨にしており、自社保有のUSDTも存在しているかと思います。USDTの暴落はそういった取引所の連鎖倒産も引き起こす可能性があります。これは仮想通貨業界のシステミック・リスクと考えても良いのではないでしょうか?

ステーブルコインは、信頼を失ったときに暴落するリスクはあっても、価格が大幅に上昇することはない顧客にとっては不利なコインであり、そのように運営会社の信用が非常に重要であることを顧客は理解しておくべきかと思います。

テザー社に限らず、顧客から資産を預かった会社やICO/IEOを行った会社は財務諸表を公開すべきだと思います。日本の仮想通貨交換業者は財務諸表の開示義務があります。

今回の裁判所の財務処方提出の命令の結果は、ステーブルコインの分水嶺となると思います。

【国内暗号資産交換業者の財務諸表一覧】

https://jvcea.or.jp/member-db/financial_disclosure_information/


最後に、bitFlyer Blockchainの採用情報です!積極採用を行っていますので、日本発のブロックチェーン企業に興味のある方はぜひ御覧ください!

https://blog.blockchain.bitflyer.com/n/n70959bb3aa23


※法的な正確性は保証しません。必ず米国弁護士に確認してください。



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