キノコと土管で考えるワイブロ(Why Blockchain)
それってブロックチェーンじゃなくてもいいですよね?
我々が最も恐れているセリフだ。同時に最も真剣に考えている問題でもある。「Why Blockchain」と呼んでいるこの問題はこの業界では誰でも苦労しているらしく、こないだ LayerX さんに遊びに行った時も「ああ、ワイブロですね、難しいですよね」と、いともかわいい愛称で呼んでいた。
ワイブロ(気に入ったのでこれからはこう呼ぶ)に対してはいくつも回答があるのだが、今回はキノコと土管の話をしてみたい。
キノコ商会と配送用土管
実際の例をだすといろいろアレなので架空の状況を設定しよう。この架空世界において、キノコの供給はキノコ商会という最大手がシェアの30%を握っており、大都市間をつないだ土管パイプラインを使って安全高速にキノコを家庭まで届けている。
このシステムをブロックチェーン化しようとしたところ、最初は「いいですね、ぜひ進めましょう。キノコが腐ることも途中で食べられることもなくなるんですよね!」と喜んでいた。
しかし実証実験も終わりいざ本番となると、乗り気だったクライアントが、突然次のようなことを言い出してきた。
「これってブロックチェーンじゃなくてもよくないですか?今の土管パイプラインだって安全にキノコ運べるし。今度直に個人が使えるサービスも始めるんですよ」
さて、どうしよう?
だがしかし
確かにそうだ。土管パイプラインは大都市を結び、その土管は3層構造で中は常にクリーンに保たれている。常時パトロールされており、傷があればすぐ交換し不審者が近づけば警報が鳴る。この土管を通ってくるキノコは、キノコ商会の名声もあり非常に安全だ。
だが問題がないわけではない。これだけのパイプラインを維持するためにキノコ一個あたり決して安くはない手数料がとられている。
また大手スーパーで野生のキノコを土管キノコとして店頭に並べ問題になったことがあった。それ以降スーパーはコンプライアンスや監査にお金をかけ土管キノコ不正対策に金がかかるようになった。
キノコ商会も苦労している。新しい産地へパイプラインを広げる際に、その地方にすである土管とつなぐ必要があるが、大きさが違うためシーリング部分の開発に莫大な経費が掛かってしまっていた。そのため一度大都市を結んだあとになかなか小都市まではパイプラインが広がらない。
ワイブロ
この状況をブロックチェーンは一新することができる。やり方は簡単、直接キノコをブロックチェーン上で流通させてしまえばいい。もはや煩わしい土管のメンテナンスは必要ないし、既存の輸送路は何でも使える。
キノコそのものに署名することで、キノコの経路が何であろうと、それこそ路上を通ろうが海の中を通ろうが絶対に改ざんされることなく、生産者から直接届いていることが保証されるからだ。
キノコ商会側にもメリットがある。もう面倒な土管のメンテナンスをしなくていいのはもちろん、今後土管の形を考えて、ほかの土管とのつなぎこみに苦慮する必要がなくなるのだ。土管を拡張する必要もない。流れるキノコの種類を増やしたければ、キノコそのものを手を入れればいい。問題が起きたときも、土管を使っていればすべてのキノコが犠牲になるが、ブロックチェーンなら個別のキノコが腐るだけだ。
まとめると
ちょっとキノコキノコ言いすぎたようなので架空の話はやめよう。
ようはレガシーシステム(土管)でもトラステッドなデータ(キノコ)を扱うことはできるし、実際に扱っているが、それはシステムをセキュアに保つために少なからず費用をかけているからできるのだ。
しかしデータはシステムからシステムへと流れていくもの。その際につなぎこみの部分や、流れた先のシステムに対しても同じレベルのセキュリティが要求される。またシステム同士でインターフェイスは違うため接続には再びコストがかかる。
言い換えればレガシーシステムはデータの通り道を安全に保つことで、データを守っているのだといえよう。
このことがシステム結合にコストがかかる本質的な原因だと思う。私は SI を長くやってきたので何度も何度もシステム結合プロジェクトをやってきた。自分のシステムのデータは信頼できる(するしかない)がほかのシステムから来るデータを信頼するには、通り道の安全のために接続部分に細心の注意を払う必要があるのだ。
これは接続システムごとにカスタマイズが必要だということである。システムがまだ小さいときは接続先も少ないのであまり問題ならないが、接続先が数百になってくると手に負えなくなってくる。
ところがブロックチェーン化するとデータにだけ注目すればよくなる。データの署名と、そのハッシュが指すものを。そのデータがどこを通ってきたか?はもはや問題ではなくなる。IP アドレス制限をする必要もないのだ。
これはすごいことだ。IP アドレスの心配どころか USB 経由でも QR コード経由でもそのデータの信頼は 1g も減損しない。どのようなモバイルアプリから送られてきたデータであろうとコールドウォレットで署名されたトランザクションと同等の信頼がある。
ブロックチェーンの難しさ
ブロックチェーンの社会実装はまだその試みが始まったばかりである。そして真剣なプロジェクトであればあるほどワイブロは重要になってくる。とりあえずブロックチェーンを使ってみようという実証実験のときは、ふわっとした言葉でごまかしていたワイブロが本質的な問いになってくる。
改めて身を引き締めてブロックチェーンと向き合っていきたい。