存在証明

スタートアップと特許の関係

 当社の特許でお世話になっている 大谷先生の記事 が公開されていたので読んでみた。当社の特許のことに触れておりちょっとうれしかった。
 しかし、なにより改めて特許という制度のありがたさ、当社の特許のすごさを思い知ったので、少し話してみたいと思う。

存在証明特許

 さて この特許 が大谷先生の記事でも紹介されていた特許だ。発明の正式なタイトルは「存在証明装置、存在証明方法、及びそのためのプログラム」などとなっているが、長いので「存在証明」と呼ぶことにしよう。

 この特許はトランザクションの隙間領域にメッセージやファイルのハッシュを書き込むことで、そのデータが存在したことを証明しようというものである。

 ブロックチェーンの特性は改ざん不可能性である。だから一度ブロックチェーンにデータが書き込まれたら内容を変えることはできない。存在を証明するだけでなく、内容についても保証されるのだ。

 またブロックチェーンに書き込まれるということは、そのファイルが「いつ」存在したのか?についても証明できる、ということである。ブロックチェーンの時間の解像度は、ビットコインだと10分程度になってしまうが、それでも十分なユースケースはたくさんあるだろう。

 そして大切なことは、そのことが検証可能であり一般的に皆が信じているということだ。大谷先生も指摘しているように

現在、なんらかの文書がある日付に存在したことを証明するためには、公証人による確定日付を取得することが必要とされるが

 公証人がそのことを保証する代わりに、ブロックチェーンのアルゴリズムとそれを確認する検証ノード、そしてその事実が一般に知れ渡っているということが、存在性を保証する。

存在証明

特許取得までの道のり

 実際の特許はアイデアだけでは成立しない。この特許の場合はファイルをどうやって保存するかとか、暗号化しておくとか、後でどうやってファイルの存在証明を行うのかとか、実際のブロックチェーンに書き込む方法とかを書くことで成立した。

 後で気づくのだがこれは結構大変なことらしい。ただ我々は、実際にこのサービスを開発していたので「具体的に記載する」というハードルは全く苦にならなかった。

 この機能は chainFlyer という我々のサービスで実装した(この機能のためには、ビットコインのトランザクションを作らなければならず、それはコインを消費しなければならない。当時はよかったのだが手数料とビットコイン価格の高騰のため、残念ながら現在この機能は使えない)

 実際に作っていたのだから特許の文章を詳細に書くのは簡単だ(いや特許文章は独特の言い回しが多く素人にはハードルが高い。大谷先生のおかげです)
 実はこの特許以外にも8つの特許を取得しているが、みんな基本的に開発中に思いついたことや、考えたことを特許化しているため、大きな苦労はなかった。
 とはいえ、思い付きに近ければ近いほど文章化するのは大変だった。実際に作ってしまうのが一番というわけだ。

どんなことができるようになるだろうか?

 この特許の応用範囲は広い。ストレートにファイルが存在したことを証明する、という使い方以外に、例えば miyabi のようなプライベートチェーンの信頼性を増すために使うことができる。

 これは通称アンカリングと呼ばれる技術で、miyabi のブロックのハッシュをビットコインのような、より多くの人が利用しているチェーンに書き込むのだ。こうすることで miyabi のプライベートチェーンを改ざんするためには miyabi の改ざんだけでなく、ビットコインもハッキングしなければならなくなる。

 あるいはブロックチェーンに永久に消えることのない愛のメッセージを書き込んでもいい。
 あるいは公証制度に取り込んでもらって、ブロックチェーンに書き込むことを公式に認めてもらう、とかもできるかもしれない。

 さらに夢が広がるのはこの機能を個人が手にすることだ。非常に安価に手軽にファイルや文書の存在証明、非改ざん証明、時刻証明ができるようになれば、今とは違うサービスができるようになるに違いない。

 これはブロックチェーンが持つ変革の力の一つであり、改めてこの特許の応用の広さに驚く。

これがスタートアップの戦い方だ

 さて再び大谷先生の記事から引用しよう。

実際、スタートアップ企業が特許を取得することは、他社による模倣の「抑止力」となるほか、資金調達やM&A、大企業とのアライアンスを実施する際の「コミュニケーションツール」となる。さらに、特許の権利化が完了していることによって、投資を実施する側にとっては、「出願はしているものの、権利は成立しないかもしれない」という不確実性がなくなり、よりスムーズな形で投資実行可否の検討に移ることができる

 まさにブロックチェーンという新興市場において、いち早く様々なサービスを手掛けてきた当社だからわかる。最初はブロックチェーンやビットコインがどう使われるのか、本当に浸透するのかわからないなか、少ないリソースを使いまわしながらサービスを作ってきた。

 技術が浸透するにつれ大企業も参入してきて、そうなると資本力や知名度などで敵わないというシーンも増えてくる。
 しかし特許は大企業もスタートアップにも平等だ。だから初期にアンテナを利かせて開発した特許も、大企業が多大な研究開発費を使って生み出した特許も、等しく扱われる。

 特にスタートアップが試行錯誤した結果、編み出した技術は「実際に」使える技術だから特許化しやすいし、その後大手企業が参入してきたときに戦いやすくなる。

 さてこの存在証明特許を使った新たなサービスを現在企画中だ。bPassport と合わせて、ブロックチェーンの力で世の中をシンプルにする。当社のミッションを推進していきたい。

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