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デフォルトって何?

カルロス・ゴーンさんで有名になったレバノンがデフォルト宣言をしました。レバノンは中東のパリと呼ばれる人口680万人でGDPが5.4兆円(日本の100分の1)くらいの小さな国です。

私はレバノン人と一緒に働いたことがありますが、仕事に関してはフランス人的な価値観の人で、レバノンはフランス人のリゾートになっていると聞きました。

なお、レバノンのデフォルト前の格付け(外貨建長期)はCC(ダブルCフラット)と最悪です。今回はデフォルトとは何かを説明したいと思います。


国債は政府の借金

政府は政府としての活動を続けるために、税金として国民からお金を集めますが、それだけでは足りなくなることがほとんどです。その分を国民(企業や外国を含む)からの借金で補っています。具体的には、国債という債券を発行します。例えば、額面1億円の国債を買うとクーポンという金利のようなものがもらえます。クーポンが1%だったとすると、毎年100万円もらえます。そして例えば10年の満期だとすると、満期を迎えると最後のクーポンの100万円と元本の1億円が戻ってきます。

つまり国債を買った人は、金利1%の10年定期預金をしているような状況になります。金利が高ければ国債は人気になりますが、逆に政府は金利を抑えたいと考えています。その両者で釣り合ったところがクーポンの利率となり、国債を買うことが定期預金、国債を売る(発行する)ことは借金と同じことなんです。

ところで、政府はなぜローンでお金を集めないのでしょうか?それは、国債は売買が簡単で、非常に大きな取引市場があるからです。取引市場があるので、クーポンに設定する金利も透明性があって分かりやすいし、沢山の買い手がいるので発行することも簡単です。それがローンだと個別交渉になり発行も転売も困難なので大きな市場が形成されません。なので政府の借り入れとしては、債券である国債を発行することが標準となっています。

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デフォルトは国家破綻ではない

時々デフォルトは国家破綻のような表現がされますが、大袈裟で適切な表現のように思えません。もちろん楽しいイベントではないのは確かですが、リスクの程度を正しく伝えるべきかと思います。

デフォルトは債務不履行です。つまり政府の借金が返せなくなった状況です。レバノンは国債の残高が増えすぎて、税収が増えずに借金が返済できなくなりました。そして、借金の減額や支払いを延期してもらうように政府は国債を持っている人に交渉することになります。

会社だったらこうは行きません。銀行は借金を返せと迫ってきます。もちろん延期したり交渉するのですが、最後は個人保証がついているのであれば、自己破産することにもなりえます。

現代では、国家は破綻したら、会社のように国民を整理解雇したり(日本人は全員移民になるのでしょうか?)、国有財産が外国に勝手に処分されたり、領土が取られたりすることもありません。(ギリシャの島は売らされてしまいましたが、領土が取られたのではなく、国有財産の売却です。)当然ですが、主権が外国に取られることもありません。

会社の倒産だと債務を株式化して主権である経営権を銀行に取られてしまいます。

この観点において政府のデフォルトは会社とは大きく異なります。政府が緊縮財政をして、債務の減額交渉をすることから始まります。

CDSは保険

さて、CDS(Credit default swap)について説明したいと思います。CDSとは、債券がデフォルトした時に保障してくれる保険のようなものです。

デフォルトの条件が決められています。

・破産(Bankruptcy)
・債務不履行(Failure to Pay)
・債務の条件変更(Restructuring)

期日までに返済ができずにちょっと待ってくれと言った瞬間に、債務の条件変更に当たります。すごく厳しいですね。これはクレジットイベントと呼ばれ、デフォルトです。

クレジットイベントが起きると、CDSを買った人は、持っていた国債(参照債務)をCDSを売った人に渡します。そして売った人は泣く泣く元本満額を買った人に払います。もしCDSを買った人が国債を持っていなくても大丈夫です。デフォルトした国債は元本の半額とかで買えます。なので50%で買って100%で売ることができるので、50%儲かります。ただし、これをするには保証料を毎年支払う必要があります。なので保険なんですね。

※デフォルトは厳密には定義がまちまちで問題になることがあります。債権放棄をさせられているのに、クレジットイベントにならないケースがあり得ます。CDSを持っている人は怒りますよね。

日本国債のCDSは現在26.2bps (1bps = 0.01%)で取引されています。国債が破綻した時に保証してもらえる保証料が、年間0.262%ということです。デフォルトのリスクが上がると、CDSが高く取引されますが、日本についてはデフォルトリスクはほぼ無いと言って良いと市場が判断しています。

そんなことはない!日本が破綻寸前だ!と考える人はCDSを買うか、円でドルを買えば良いかと思います。

一方レバノンのCDSは3145bpsです。毎年31%も保険料も支払わないといけないですが、これはほぼレバノンの国債の債権減額を織り込んでいますね。




1260億円程度の借金が返せないの?

報道にあるように、1260億円の国債くらいであれば、返済できそうですよね?しかし2020年中に返済しなければいけない債務が約4800億円あります。なので先を見越してもうお手上げと宣言したんですね。

「ディアブ氏は、レバノンの政府債務が国内総生産(GDP)の170%に達し、2020年中に計46億ドルの債務が返済期限を迎えると明らかにした。」

さて疑問に思うのが、政府が自由に通貨を発行できるので、なぜ通貨を発行して返済しないのかということです。今回は米ドル建てなので、それができなかったということです。

これが自国通貨建て(レバノン・ポンド)だったら、中央銀行が通貨を大量に発行して、借金を返すことができます。つまり自国通貨を自由にコントロールできる政府の自国通貨建て債券は絶対にデフォルトしません。その代わりにインフレになります。インフレとデフォルトとどちらが良いかと考えて政府が意思決定することになります。

なぜ米ドルなんかで借金してしまったのだ?と思いますが、それはお金を貸すほうも、上記理論を知っているのでレバノン・ポンドでお金を貸さないからです。


銀行や預金者を保護するとインフレになる

レバノンはいかなる銀行も倒産させないし、預金者を保護すると言ってますが、これは政府は預金者をどのお金を使って保護するのでしょうか?無い袖は振れません。国民に安心感を与えるためのメッセージですが、銀行を救い、預金者を保護するために通貨を大量発行するのであれば、インフレになるだけです。

「レバノン中央銀行の公示方針は、いかなる銀行も倒産させず、預金者を保護するというもの。さらにレバノンの法律上、ヘアカットは認められていない」アル・ハブトール氏に対してバンク・ドゥ・リバン銀行(BDL)のリアド・サラメー頭取はツイッターの投稿でそう述べている。


プライマリーバランスは政府の収益

政府の収益はプライマリーバランスと呼ばれています。GDPは売上のようなものなのです。多くの国でプライマリーバランスが赤字なので、しょうがなくGDPに対しての債務残高で表現しているのですね。赤字上場するベンチャーがPERだと時価総額が計算できないので、PSRで評価するのに似てますね。基本的にはGDPが増えれば税収も増えるのでプライマリーバランスは改善します。

日本は債務残高の対GDP比は2019年で237%とレバノンの170%よりも酷いですが、なぜ日本のCDSは26.2bpsとレバノンの3145bpsより安いのでしょうか?

それはマクロ経済は債務残高の対GDP比だけでは語れるほど簡単ではないからです。この辺りは別のnoteで書こうかと思っています。

日本もずっとプライマリーバランスが赤字で良いということはありません。政府債務が増大していくだけなので、どこかで税収を増やして借金を返さないといけません。実質政府が債務を返さないような状況もあり得ますが、これも別のnoteで考察します。

レバノン政府は、今後税収を増やすか、支出を減らすか、国有資産を外国企業や外国政府に売却するなどドル建ての借金を返すように努力しないといけません。通貨発行してインフレにもできません。レバノン・ポンドがインフレになると、ドルに対して売られてレバノン・ポンド安になります。ドルの借金を返済するのに、より多くのレバノン・ポンドが必要で問題を根本的には解決していません。

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国民の生活はどうなるの?

収入(歳入)を増やすのには国債を発行するか税収を増やす必要がありますが、当然ですが国債をさらに発行することは自転車操業で問題解決していません。結局、税収を増やすことになるので国民は嫌がるでしょう。また支出(歳出)の多くは、年金・医療の社会保障であったり、学校、警察、役所など公務員の給料です。これもギリシャの時は、公務員は相当抵抗しました。国民は苦痛を受け入れることは嫌なので、緊縮財政をするような政府は政権が持ちません。ジレンマに陥ります。

国債を買った外国からすると、レバノン人の誰でもいいので苦痛を受け入れて借金を返してくれとなります。

自国通貨安になるので、輸入しているものが高くなり生活費が上がります。年金カットや、公務員の給与が下がったり人員削減となりますが、そうなるとボイコットして公共サービスが悪くなります。治安も悪くなります。

誰かが苦痛を受け入れなければなりません。政府の借金は政府の苦痛といっても、結局それは国民に転嫁されるので同じです。

デフォルトが国家破綻というのは、あまりにセンセーショナルな表現ですが、苦痛を伴う悲惨な状況になるのは間違いありません。そうならないためには、政府の借金について結局は国民が責任を持っていることを自覚し、然るべき財政についての議論を続けて規律を保つことが重要だと考えています。




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