Lightning Networkでビットコインはインターネットのネイティブ通貨になるのか?
Twitter、Squareのジャック・ドーシー、Teslaのイーロン・マスクが現時点で仮想通貨、ブロックチェーン業界に大きな影響を与えていることは(よいことかわるいことかはさておき)否定できない状態になっていますが、その彼らが語り合った7月21日のThe B Worldにおいて、ビットコインのセカンドレイヤー、Lightning Networkについて多く言及されていました。
Lightning NetworkによってBitcoinはNative Currency of Internetになる、今のように取引所に秘密鍵管理を任せるのではなく、ユーザーひとりひとりが簡単に秘密鍵を管理できるようにしたい、というのがジャックドーシーの考えのようです。ジャックのTwitterのProfileの⚡もLightningを表すマークですね。
この業界の未来を考える上でLightning Networkは欠かせないものになっているので、概要と現状、今後について書いてみました。
Lightning Networkとは何か?
ジャックとイーロンが注目しているビットコインの2ndレイヤー技術、Lightning Networkはオフチェーンでビットコインを送るもので、ビットコインを送る際の「時間がかかる」「手数料が高い」を解決します。
技術的な説明はNayutaの上野さんのブログがとてもわかりやすいです。簡単にポイントを説明すると・・・
こちら↓が通常のビットコインの送金の仕組みです。ウサギがコアラに0.5BTCを送りたい(0.5BTCを送るという「トランザクション」と呼びます)場合、①ネットワークにこのトランザクションを送り、②ブロックに入り、③ノード間の検証を経てブロックが確定します。
(一般的にはウサギとコアラは取引所にアカウントを持っていることが想定されるので、bitFlyerユーザーのウサギがCoincheckユーザーのコアラビットコインアドレスを指定して送付リクエストをbitFlyerに送る。bitFlyerがCoincheckに送付するトランザクションを作る、という流れになります)
ビットコインは秒間7件のトランザクションしか処理できないので、トランザクションが混みあってしまった場合は①ブロックに取り入れてもらうための手数料を高く設定する、②トランザクションが混みあわなくなるまで待つ、しかありません。
こちらのチャート↓によると手数料は高いときだと60ドルを超えることもあり足許でも~10ドル程度。銀行の国内送金(インターネットを使った場合)が220円~440円、国際送金が2,500~3,000円なので、ビットコインを使った送金は平時は銀行送金より安いものの、ネットワークの混雑具合によっては割高になってしまう状態になっています。
(という状態を受けて取引所が設定しているコインの送付Feeは恒常的に銀行の送金手数料より高い状態になっていることも散見されます)
Lightning Networkはこれを、ビットコインのネットワークを介さない方法で解決します。
まず、ウサギとコアラはビットコインの「ノード」になっている前提です。
※ノードとはビットコインネットワークに参加している端末のことです。
ウサギとコアラはLightning PaymentのChannelというものを作ります。例えば、ウサギは0.6BTC、コアラは0.4BTCをこの「Channel」に置いておきます。(この置いているビットコインの量を「Channel」の「Capacity」と言います。)
ウサギがコアラに0.5BTC送る際にはこのChannel上でウサギの残高を0.6BTCから0.1BTCにし、コアラの残高を0.4BTCから0.9BTCにすれば終わりです。
これはChannel上での持ち分が変化しただけなのでビットコインのブロックチェーン上には記録されません。なのでブロックに入れてもらうための手数料や、確定するまでの時間という概念はありません。すぐに送金が完了します。
では誰かにビットコインを送る際には必ずその人との「Channel」を作らないといけないのでしょうか?
そんなことはなく、例えばウサギがChannelのつながっていないパンダにビットコインで送金したいとき、パンダがコアラとつながっていればパンダを介しての送金が可能です。
ウサギ⇔コアラ間のChannelでウサギー0.1BTC、コアラ+0.1BTCし、
コアラ⇔パンダ間のChannelでコアラー0.1BTC、パンダ+0.1BTCすれば
両Channelの残高は変えずにウサギからパンダに0.1BTC送ったのと同じことになります。
前述の上野さんのブログにある図ですが、実際はこんな感じで送金先までたどり着きます。このとき中継してくれるノードには「ルーティング手数料」というのを支払いますが1送金当たり~10satoshi(0.5円)程度です。
エルサルバドルでのビットコイン決済(Lightning決済)の普及
2021年6月8日にブケレ大統領の提出した法案が国会で可決されたため、9月7日に中南米のエルサルバドルではビットコインが法定通貨になります。
エルサルバドルについては①もともと法定通貨が米ドルという他国通貨なので金融政策ができない、②海外からの仕送りがGDPの20%超を占める、③銀行口座を持っていない人が人口の7割、という特徴があることから、ビットコインを法定通貨とし決済手段を使うことに一定に合理性がある状態だと個人的には考えています。
ビットコインを送金手段として使う際にブロックチェーンを介した送金では手数料が高く即時決済にならないので、エルサルバドルではジャック・マラーズさんが作るStrikeなどのLightningWalletで決済しています。
IMF(国際通貨基金)がビットコインを法定通貨にするのは危険だ!と言っているのも見ましたが、これまで現金の受け渡しでしか支払いができず公共料金の支払いのために片道数時間かけていた人たちが携帯電話のウォレットで一瞬で支払い完了できるようになる、というのは完全に否定することでもないのではないでしょうか。
以下の動画でもビットコインでの支払いがエルサルバドルの人々の生活に定着している様子がうかがえます。
https://www.youtube.com/watch?v=aVVZXUFItZY&t=497s
Lightningのカストディアルウォレットとノンカストディアルウォレット(と、最近はやりのUmbrel)
エルサルバドルの人たちが使っているStrikeWalletは「カストディアルウォレット」で、先ほどの例のウサギとコアラとパンダのようにビットコインのノードをたてたり、Channelをあけたりというのは運営側のStrikeがやっています。ユーザーはウォレットにドルを入金してビットコインを買ったり、QRコードを読み込んでビットコインで支払いをしたりするだけです。
「秘密鍵」は運営側が預かっているので、Strikeがやっていることは日本法では暗号資産交換業にあたると考えられます。
秘密鍵を自分で管理するのが「ノン・カストディアルウォレット」です。最近私がRasberryPiでビットコインフルノードを作り、Diamond HandsというNodeとChannelを開けるなどしていたのはこの件です。
Umbrelというサービスを使うので非エンジニアの私にもギリギリできました。こちらのNotionにhow to set upはまとめてあります。(Communityの皆様がどんどん加筆してくださいました!)
わたしのNode(Citronと名付けました)はここから確認できます。
ギリギリできました、と言いましたがUmbrelのOSソフトをmicroSDを書きこむのにWindowsではBalenaEtcherではできずRasberryPiの公式ソフトをダウンロードしたり、SSDがケース+SSDではうまく接続できず買いなおしたり、NodeにAliasをCitronとつけるのにコマンドプロンプトからLNDの設定を変えた際にミスしてHelpを見てやり直したら同期が最初からやり直しになったり、日本の人気Node、Diamond Handsのコミュニティの皆様のヘルプがなければ絶対に挫折していました。
これを私のママができるかというと難しいですね。冒頭のThe B Worldでイーロン・マスクが「普通の人がNode立てるなんて無理だろ?」と言ってましたが現状はその通りだと思います。
ジャック・ドーシーは秘密鍵をユーザー一人一人が持ちつつ、直感的に使いやすいウォレット(つまりは使いやすいノンカストディアル・ウォレット)を目指しており、このための開発者を募集中です。
ノンカストディアルLightning Walletで何ができるのか?
使いやすいノンカストディアルLightningWalletができるとどんなことができるようになるのでしょうか?
●ジャックはTwitterでの投げ銭などは考えているはずです。カストディアルWalletだとTwitterが各国で「暗号資産交換業」的なものにあたることになると思われるので、ノンカストディアルな形にしてユーザーに追加の本人確認がない形にしたいのではないでしょうか。誰かの投稿にビットコインで投げ銭を送り、法定通貨を補充、または法定通貨に換える際にはいわゆる「取引所」に送るというような形かと思われます。
●ゲームの報酬でBitcoinを配るというのもノンカストディアルウォレットの方がやりやすいのでは。Sarutobiというビットコインがもらえるゲームもすでにありますね。
(きっともっとあるはずですが思いつかない・・・。)
またこれは各国の法令によるので必ずしもノンカストディアルである必要はないと思いますが、現在銀行口座を持っていない人が多く、金融インフラも発達していない国ではLightningWalletは決済インフラとしてかなり使えるのではないでしょうか。
この観点でジャックはアフリカでのLightning普及に興味を持っていると思われます。
ただし、AML(アンチマネーロンダリング)の観点からノンカストディアルウォレットでも送付金額に上限を設けたりなどは必要になってくるかもしれません。AMLの観点はとても重要なのでここは適切にあるべき姿になっていってほしいと思います。
日本ではSuicaや〇〇Payが充実しているのでエルサルバドルなどと比べて支払い手段として取り入れるメリットは相対的に薄いかもしれませんが(税務上、暗号資産で決済するとその時点で売却したとみなして計算する必要もあります。)Twitterの投げ銭やゲームの報酬用途では使えたら嬉しいですよね。
また、Suicaや〇〇Payでは海外に10円送りたい、というニーズには応えられないので、クロスボーダーの少額決済にはLightning決済は今の日本でも一番よい手段だと思います。
最近フィリピンでNFTが使われているゲームAxie Infinityが大流行し、マジョリティの人がmetamaskを使っている状態なのでLightningのノンカストディアルウォレットももう少しだけ使いやすくなれば爆発的に世界中に広まるのかもしれません。
Lightning Networkの現在の規模
足許(2021年8月9日夜時点)、Lightning Network上でChannelを開いているNodeは13,855あり、Channelは64,721個存在、当該Channel上のBTCは2,285BTCになっています。2,285BTCは1BTC=500万円として114億円相当です。
なんとなくDeFiのアドレスにロックされている金額、と概念が似ていますね。2021年4月から7月で、CapacityとNodeの数は以下のような感じで大きく増えていっています。
ウェブサービスがノンカストディアルウォレットを併設するのが当たり前の世界がきたら、法定通貨と交換する取引所ともLightning Networkでつながっていることが求められます。海外ではLightning Network対応している取引所も少しずつ出てきています。
そうすると取引所もLightning Nodeになる未来がやってきて、いかにうまくルーティング報酬を稼ぐかで競い合うことになるのかもしれません。
わたしもNodeを運営してみて、どのNodeとChannelを開いたらルーティング報酬がもらえるかなど考えているのですが、ただChannel数が多いNodeにつなげばよいというものでもなくとても奥が深い世界です。
また、Lightning Networkを活用したアプリを総称してLapp(Lightning Applications))と呼びますが、自分のNodeを作ったのでアプリを作ってみた、という人たちもちょっとずつ出てきています。
Lightning Node同士で電話できるアプリを作っている人もいる・・・!
個人的には数円相当のLightning支払いでアメリカのニワトリにご飯を上げるPollo Feedが好きでしたが、今はリアルタイムのニワトリの姿が映らなくなっており残念。※以前はこの支払った後ごはんが落ちてニワトリたちがごはんをぱくぱくする映像をリアルタイムで見ることができました。
Lightning Networkの使いやすいWalletが誕生してBitcoinがNative Currency of Internetになれるのか、どのような規制/ルールがが適切なのか。
Bitcoinの行く末を左右しうるポイントだと思うので注視していきたいです。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?