一瞬で26億円売り切れたadidas×BAYC NFTの仕掛けと狙い
日本時間2021年12月18日朝、adidas Originals初のNFTコレクションが販売個数の29,620枚(一枚0.2ETH)全部の販売が一瞬で終了しました。時価で26億円相当のNFTが一瞬で売り切れたことになります。
暗号資産市場全体がダウントレンドなタイミングだったこともあり、特に日本ではあまり大ニュースになっていない印象なのですが、大企業×NFTの取り組みとして非常によく考えられた、現時点で理想的なもののひとつと言える内容だったのでnoteに纏めておきます。
adidasがメタバースに?の初動
ことの発端は2021年12月3日、adidas OriginalのこのTweet↓でした。
「adidasはBoredApeYC、gmoneyNFT、PUNKScomicとメタバースの世界にいくよ!無限の可能性のある世界へ旅立つときがきた!」
この日、addidas OriginalsのTwitterアカウントのアイコンもaddidasバージョンのBAYCに変わりました。
adidasはBAYCの10,000個のコレクションから「ape #8774」を購入し、Indigo Herzと名付けブランド初のNFTとしました。(Indigo Herzは心の目で世界を見る反骨精神を持つ楽観主義者とのことです。)
「ape #8774」はopenseaのページでも確認できますが、もともとは服は着ておらず、ジャージはadidasがアイコンにする際に着せてあげています。
adidasがコラボレーションしたBAYCとは何か
一日中ブロックチェーンと暗号資産とメタバースのことを考えているような私たちのような人種には「BAYC」と言えば説明不要ですが、一般的には全然知名度がない状態だと思いますのでBAYCについて書いておきます。
BAYCとはBored Ape Yacht Clubの略で、10,000個のサルの絵のコレクションです。現時点で流通量世界トップのNFTマーケットプレースでも常に人気のコレクションで、現時点(2021年12月19日)で直近30日間の取引量はコレクション全体で第4位。
こんな感じで10,000個の様々な服を着たサルで構成されたコレクションです。
BAYCとは何か、についてはこちらのコインテレグラフの記事が詳しいですが、まとめると
🐵2021年4月に4人のプロジェクトチームからOpenSeaでリリースされた
🐵アイコンに使いやすいもの、というコンセプトで作られている
🐵5月にはTwitterアイコンにBAYCを利用するコレクターが増え始める
🐵BAYCのNFTを買った著名人は米テレビ司会者ジミー・ファロン、ラッパーのポスト・マローン、DJのDJ キャレドなど。日本だとMax松浦さんも保有
🐵BAYC保有者のみのDiscordがあり、保有者のみでのパーティやアートイベントなどが行われている
🐵現在は価格が高騰し一番安く買えるのが48.99ETH(今のETH価格で2200万円相当)
という感じです。
保有者でもあるMax松浦さんがnoteで「ただ単に猿の絵を誰が高い値段出して買うと思う?」と言っているように、実態としてはいけてるコミュニティへの入場券、保有していることでステータスを示すものとなっています。
BAYCのほかにコラボレーションしているPUNKS comicとgmoneyNFTですが、adidasからの発表があるまで私は知りませんでした。
プレスリリースの以下の説明を読む限り、adidasがNFTプロジェクトに取り組むにあたり、gmoneyとPixel Valultというふたりのインフルエンサーからアドバイスをもらっていたように読めます。
adidas「Into the Metaverse」コレクション概要
12月3日に「メタバースやっていくよ」というリリースを出し、買ったBAYCにadidasのジャージを着せたものをTwitterアイコンにし、NFT界隈の人たちの期待値が上がった中で、12月16日についにadidasからプレスリリースが出ました。
発表されたのは
●デジタルとフィジカル(現実)のプロダクトの権利を得られる限定NFTコレクション「Into the Metaverse」の発行(12月17日)
●デジタルのプロダクト:ブロックチェーンを活用したNFTゲーム「The Sandbox」やその他プラットフォームで使用できるバーチャルウェアラブル(洋服)
●フィジカルのプロダクト:デジタルのウエアラブルと同じデザインのプロダクト
また、その後17日に発表されたinto the metaverseのページではより詳細が書いてあり、
●0.2ETHで30,000個発行。20,000個はBAYCなどを既に持っている人向け。9,620個は一般向け、380個は今後のためにとっておく
●2022年にゲットできるフィジカルアイテムはIndigo Hertsが着てるジャージ、gmoneyがかぶってるオレンジの帽子など
ということが判明しました。
addidasのinto the metaverseと名付けられたサイトはこちら。かっこいい・・・!
into the metaverseページが出たくらいのタイミングで、NFT情報コレクターmiinさんのTweetも注目され日本でもNFT界隈の人たちがざわざわし始めました。
adidas NFT争奪戦→一瞬での売り切れ
NFTコレクションの販売(正確にはmint、後述)は日本時間で17日の深夜では・・・?と言われ多くの人たちが夜通し待っていたところ、実際には日本時間18日の朝8時にスタートしました。(はい、私は寝落ちして8時20分に起きたときには全てが終わっていました😿)
こちらの方↓のTweetを追っていくと・・・
●一般向けの販売(mint)は日本時間18日(土)朝8時に開始
●多くの人が殺到しinto the metaverseサイトは激重になりイーサリアムのガス代は高騰(1,646gweiだと一番シンプルなイーサリアムを送付するのに必要なガス代は150Gwei=1,646÷10億×45万円×21,000=16,000円程度で、NFTのmintにはもっとかかります。最近は通常100gwei以下なので明らかに本件で高騰しています)
●2分後にサイトがロードできた時には売り切れ
という状況だったようです。
日本からもちゃんとこの時間に起きていて争奪戦に参加した方もいたようですが、カウントダウンが終わって画面が切り替わった瞬間にSOLDOUT、という声や、ガス代の設定を高くしていれば買いやすかった、という声がTwitter上で見られました。
そんな中関口メンディーさんは買えたようです!メンディーさんすごい!
NFTの二次流通の状況はOpenseaのページで確認できます。ホルダーからいくつか売り出されている状態になっており一番安い売り出し価格(Floor Price)は0.898ETH。最初のホルダーは0.2ETHで買っているので4.5倍の価格設定になっています。
※今回のNFTはウォレットユーザーが該当ページに行ってNFTをmint(発行)する必要がありました。NFTの発行、もブロックチェーン上のコントラクトになるので、発行者側にガス代がかかります。今回多くの人が殺到したことでガス代が一時期8万円ほどになり、かつガス代だけ払ってNFTはもらえなかった、という人も一定程度発生したようです。
adidasの狙い
adidasがなぜ今回のNFT販売を行ったか、という記事をWWDJAPANで発見しました。
adidasは確かにこれまでずっと旬のかっこいいアーティスト、ブランドなどとのコラボを行ってきており(ファレルとかHYKEとか私も狙っていた記憶が)、NFTもこの文脈で捉えているようです。
LOUIS VUITTONがVirgil Ablohさんを通じてストリートのカルチャーをブランドに取り入れていったように、こういったメガブランドは今何がいけてるのかを常に追っており自社ブランドに取り込めないか考えているということでしょう。
恐らく、、、
記事の流れで社内でプロジェクト立ち上がる→インフルエンサーのgmoneyさんとPixel Valutさんに話を聞いてみる→BAYCにadidas着せたらCool!となる→メタバースでも現実世界でも着れる服があったらいいんじゃない?
という感じで今回のプロジェクトが進んでいったのかなと思います。11月23日にadidasがThe Sandboxでバーチャル土地を買ったことも話題になりましたが、NFTホルダー向けにここでメタバースイベントの開催なども今後行われるのではと思います。
※The Sandboxはゲーム内の仮想世界(メタバース)上でプレイヤー達がボクセルアートやゲームを作成できるゲームプラットフォーム
今回のadidas 「Into the Metaverse」プロジェクトからの学び
今回のadidasのNFTプロジェクトは大枠で見れば大成功だと思います。いくつか個人的にポイントだと思っていることを挙げます。
価格設定
1個0.2ETHという価格設定はadidas、BAYCというブランドバリューを考えると絶秒だったと思います。クリプトの世界には2010年代前半からホールドしていて超お金持ちになっている人、Max松浦さんのように事業で財を成してから参入してきている人も多くおり、純粋なオークションでは普通の人は勝ち目はありません。
1個0.2ETHというのは、「普通の人」がadidasの世界初NFTの値段として頑張って買ってみようかな、と思えるギリギリの水準であるように思います。
優先販売と一般販売
今回3万枚のNFTのうち、ざっくり言うと2万枚はBAYCなどのホルダー向け、1万枚が一般販売用となりました。adidasの狙いが「今もっとも勢いのあるコミュニティを知るため」であることを考えると、いけてるNFTホルダーにいけてるNFTの派生NFTとしての自社アイテムを持ってもらう、というのはすごくよい戦略のように思います。その後の一般販売での争奪戦による値上がりで彼らも便益を得てブランドへのシンパシーが生まれることも想定できます。
マーケティングとデザインが最高。さすが世界のadidas
これは純粋にマーケティングマターですが、さすが世界のトップブランドのadidasで、ティザーで期待を高めてからの発表ドーン!というのをとても効果的にやっていたと思います。一つ一つのティザーのクオリティも高く、Into the Metaverseサイトも純粋にかっこよかったです。
わたしも本件を最初聞いたときは「ふーんadidasとBAYCか…NIKE派だしな、、、BAYCも別にな。。。」と思ってましたがビジュアルを見て一瞬で絶対欲しい!と思いました。
ガス代問題とNFTプラットフォームサーバー問題
これは今後同様のプロジェクトを検討する企業の課題になると思いますが、NFTを発行するブロックチェーンとしてイーサリアムを選ぶと、ガス代の問題は現状不可避です。0.2ETHだと現状9万円程度ですが、購入者はこれに加えて8万円程度のガス代を払っていたことになります。
また、今回openseaでの発行となりましたが、アクセス集中でopenseaサイトが激重になったようで、ガス代だけ払って発行できなかった、という声もTwitter上で見られました。
こういったプロジェクトはマス向けではないのかもしれませんが、とはいえ改善が必要な部分のように見えます。
アパレル×NFTの今後
ということで、今回のadidasのプロジェクトはアパレル×NFTのプロジェクトとしてとても秀逸だったと思います。
前述の通りわたしはNIKE派ですが、NIKEもバーチャルスニーカーなどを制作するRTKFTの買収を12月13日に発表しており、NIKE×NFTの動きにも注目しています。
LVMHも以前から模倣品を防ぐためのブロックチェーン活用などに取り組んでおり、LOUIS200周年でNFTゲームを出していたこともあり絶対になにか企んでいるはず・・・!
アパレルは今後広がっていくと考えられているメタバース上でのアイテムのNFT化、というわかりやすいビジネスチャンスがあるため、このエリアに取り組みやすいのだと思います。
日本でもいけてるコミュニティを持つかっこいいNFTプロジェクトはいくつかあるので、ぜひこういう取り組みが出てきてほしいし、ご興味ある方はぜひご連絡ください。