Bitcoin is Key to an Abundant, Clean Energy Future~ビットコインは豊かでクリーンなエネルギーの未来の鍵(Squareレポート和訳)
ジャック・ドーシーのSquare社がリードするBitcoin Clean Energy Initiativeが2021年4月に「Bitcoin is Key to an Abundant, Clean Energy Future」というレポートを出しています。
イーロン・マスクの5月13日のこのTweetは仮想通貨全体に大きな影響を与えており、「ビットコインマイニングと環境」は少なくとも足許は重要なテーマになっています。
Bitcoin Clean Energy Initiativeのレポートがこの「ビットコインと環境」問題にどのようなアプローチをとっているか調べたところとても面白かったので、日本語訳を(勝手に)作りました。
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このメモについて
ビットコイン・クリーンエネルギー・イニシアチブは、再生可能エネルギーや蓄電技術と合わせて考えた際、ビットコイン・マイニングが、クリーンエネルギーへのシフトを促進するのに適しているというビジョンを共有するための出発点として、この短い研究論文を作成しました。
この研究は、豊かでクリーンなエネルギーの未来を切り開くための、実りある解決策を探るための始まりに過ぎません。
ユニークな電力の買い手
ビットコインマイナーは、必要とする電力が非常に柔軟で安定的でなくてもよく、世界的に流動性のある暗号通貨で支払いを行うという点で、ユニークなエネルギーの買い手です。
ビットコインマイナーはインターネットに接続することだけを必要とし、場所を選ばないという点でもユニークです。
再生可能エネルギーは今や最も安価なエネルギー
太陽光発電と風力発電のエネルギー平準的コスト(LCOE)は、過去10年間でそれぞれ90%、71%低下しました。
補助金なしでの太陽光発電と風力発電のコストは、それぞれ3〜4セント/kWh、2〜5セント/kWhとなっています。一部のプロジェクトでは、さらにコストが低くなっているものもあります。
ちなみに、石炭や天然ガスなどの化石燃料の平均的なLCOEは5〜7セント/kWhで、太陽電池や風力発電は石炭や天然ガスよりも低い価格帯であることがわかります。
水力発電は1kWhあたり約3〜5セントと安価ですが、提供できる地域が限定されています。水力発電や地熱発電のように、個別に安価な発電所があることは確かですが、全体としては、太陽電池と風力発電が最も低コストで拡張性があります。
さらに、これらの電力は時間の経過とともに、より安価になっていくと考えています。特に、半導体技術を使う太陽光発電は、半導体の進化により累積容量が2倍になるごとに20〜40%の価格低下を続けてきました。
一時的な需要と供給のミスマッチと電力網の混雑
しかし、太陽光発電と風力発電には、天然ガスや原子力のような高価なベースロード電源に比べて大きな欠点があります。それは「間欠性」です。
エネルギー業界では、以下の時間帯別の電力需要のチャートは"ダックカーブ "と呼ばれています。
太陽光発電について、日中は太陽が出ていますが、夜は出ていません。風力発電について、風は夜になると強く吹く傾向がありますが、予測不可能です。つまり太陽光発電と風力発電によるエネルギーの供給は、時間帯によって十分であったり全くなかったりします。電力需要のピークは、人々が帰宅して電気製品を起動する午後遅くか夕方早くになりますが、この時間帯は太陽光も風力も豊富には得られません。一日のうちの数時間においては、通常社会が必要とする電力よりもかなり多くの電力が必要となり、この時間に需要が急増したときには電力供給が十分ではないことも起こります。
太陽光発電と風力発電には、夏には太陽の光が強くなり、冬には風が強くなるなど、季節性の問題もあります。
このような問題は、太陽光発電プロジェクトや風力発電プロジェクトが、太陽光や風力は豊富だが近所の電力需要(=最終電力ユーザー)や送電容量が少ない地方に建設されることが多いために、高速道路の交通渋滞の問題と同様にさらに悪化します。現在、米国の3つの送電網へ連携を待っている2億kW以上の太陽光・風力発電設備があります。これらのプロジェクトは、開発者もおり、資金調達は容易であるにもかかわらず、送電網への連携が物理的に対応できないのです。
これらの問題を解決するためには、送電容量の増加と電力の貯蔵が不可欠です。特に、リチウムイオン電池のコストカーブは下がってきていますが、今のところ、実用規模のバッテリーはまだ高価で、全世界に普及させることはできません。
コストがあと80%下がったとしても、耐用年数や、エネルギーを散逸させずに蓄えることができる時間など、物理的な限界があります。
しかし、昼間の安価な太陽光を夕方のピーク時に蓄えるためには、バッテリーは最も重要な技術となるでしょう。
ビットコインマイニング:発電+電力貯蔵の理想的な補完関係
一方、ビットコイン・マイナーは、自然エネルギーや電力の貯蔵を補完する理想的な技術です。
発電と蓄電の両方とマイナーを組み合わせることで、発電と蓄電を単独で構築するよりも、総合的な価値提案が可能になります。
前述したように、エネルギーを散逸させずにコスト効率よく貯蔵するには、物理的な限界が常にあります。しかし、日々の間欠性の問題は、わずか数時間の蓄電容量でほぼ解決することができます。
マイナーと自然エネルギー+電力貯蔵のプロジェクトを組み合わせることで、以下が可能になると考えています。
1. プロジェクトの投資家や開発者のリターンを向上させ、より多くの太陽光発電や風力発電のプロジェクトを収益性の高いものにする
2. 長期間にわたる送電網への接続調査が完了する前でも、太陽光発電や風力発電のプロジェクトを建設できるようにする(送電網への販売が可能になるまで、ビットコイン・マイナーがエネルギーを引き取ることができるため)
3. 暑すぎたり寒すぎたりするようなブラックスワン現象において電力需要が急増したとき(例:2021年初頭にテキサス州で発生した停電)に、すぐに利用できる「余剰」エネルギーを送電網に供給する。
なお、電気自動車の普及やあらゆる機器の電化に伴い、社会の電力需要が増加した際には、この「余剰」エネルギーも大いに役立つものになります。
このような利点を考えると、蓄電技術の開発者がバッテリーをビットコインマイナーにも提供することは、理にかなっていると考えられます。
長期的なインプリケーション
ビットコインのマイナーが、電力の買い手として定着した場合、2つの大きな意味があると考えています。
1つ目は、送電網上の太陽エネルギーと風力エネルギーの量が劇的に増加することです。
前述したように、現在、送電網への接続待ちの太陽光発電と風力発電の容量は2億kWを超えています。
これは、現在米国に設置されている太陽光発電や風力発電の容量の約2倍にあたります。
社会がより多くの太陽光発電や風力発電を導入することで、エネルギー平準的コスト(LCOE)がコストカーブをさらに下降させ、次の太陽光発電や風力発電をより安価に導入できるようになると考えています。
LCOEが下がれば、水の淡水化、大気中のCO2の除去、グリーン水素の製造など、電力の収益性の高い新しいユースケースが生まれる可能性があります。
この分野の専門家の中には、新しい電力を生産するための限界費用が、実際にはゼロに近づくと予想する人もいます。
2つ目の大きな影響は、ビットコインのマイニング産業の大幅な変革とグリーン化です。
現在、世界のマイニングのキャパシティは10〜20GWしかないと言われています。遅れている200GWの太陽光発電と風力発電のプロジェクトがある米国の送電網だけで、マイニングマシンを20%の能力で配備すると、40GWの新規採掘能力が得られます。
これは事実上、既存の世界市場全体を凌駕するものです。
ただし、これらのプロジェクトの多くは、可能な限り抑制された太陽光や風力を利用する「ビハインド・ザ・メーター」方式(送電網を通さず直接発電所から電力の供給を受ける方式)で建設されているとはいえ、採算が合うときには他の電力ソースを利用してマイニングを行うと予想されるため、最初から完全なグリーン・マイニングとはなりません。
しかし、太陽光や風力がさらに安価になり、ベースロード電力(火力発電、原子力発電による電力)の割合に対して大きくなれば、最終的には再生可能エネルギーがハッシュレートを支配する方向へと急速に進むでしょう。
このように地理的に多様なハッシュレートを大量に導入することは、ビットコインネットワークのセキュリティを強化し、ビットコインを健全な通貨として定着させるという二次的な効果も期待できます。
Next Step
上記のビジョンがどのように実現するかについては、まだ重要な問題が残っています。少なくとも3つのビジネスチャンスがあります。
1. 電力管理ソフトウェア、サービス およびサービス
電力の貯蔵とビットコインマイニングに特化した電力管理会社は新たに発電された電力の最適な利用法(使うのか、貯蔵するのか、マイニングに使うのか)をリアルタイムで決定するソフトウェアを作ります。また、電力資産の管理ツールや プロジェクトのパフォーマンスのリアルタイムモニタリングツールも提供します
2. エネルギー/マイナーのマーケットプレイス
電力プロジェクトの開発者、マイナー、資金提供者をつなぐ、管理されたマーケットプレイスが出現する可能性があります。
一つの重要な課題は、既存のマイナーの信用力の問題を解決することです。
3.ASIC(マイニングマシン)製造
予測される需要の急増に対応するために、新しいチップファウンドリーが建設される可能性があります。サムスンとTSMCは最近、北米での新工場建設を発表しています。
また、ハードウェアやファームウェアの改良を継続して行うことで、断続的な電力使用に最適化されたマイニングマシンの耐久性を向上させることができると考えています。
アクションに向けて
ビットコイン市場とエネルギー市場は融合しつつあり、今日のエネルギー資産の所有者が明日のビットコインマイナーになる可能性が高いと考えています。
電力会社の経営者、持続可能なインフラファンド、グリッドスケールの蓄電技術開発者は、戦略的ロードマップを調整し、ビットコインマイニングとクリーンエネルギー生産の相乗効果に大規模な投資を行うことで、この未来を加速させることができるでしょう。
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Galaxy Digitalはビットコインの電力消費量を金、既存金融機関と比べたレポートを出しています。(こちら↓は日本語訳)
いろんな本を読む限り欧米での(特に米国での)ESGに対する意識は足許きわめて高いので機関投資家、個人投資家(特にミレニアル世代)へのこの資産クラスのアダプションが進むためにはこの問題の解決がマストなのかもしれません。
5月21日には中国政府によるビットコインマイニングの取締りの方針も発表されています。
そして5月24日の日本時間夜間にはMicael SaylorがElon Mustと北米のビットコインマイナーとのミーティングをホストし、再生可能エネルギー(太陽光発電、陸上風力発電、洋上風力発電、バイオマス発電、その他自然エネルギー発電)を使っていく方向性を話したとTweet、仮想通貨の価格も大きく戻しています。
このレポートが書いているような世界が実現するのか、それとも何か他の方法で「ビットコインと環境」の問題が解決するのか、仮想通貨にかかわる人たちにとってはしばらく重要なテーマになりそうなので注視していきたいと思います。