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OTC今昔物語


私はゴールドマンではOTC(オーバー・ザ・カウンター:相対取引のこと)トレーダーでした。OTCの定義が業界によっても人によっても異なるので、うまく会話が成立しないなと悩んでいました。外国為替FX事業者は2 wayのbidとaskを表示する画面での取引をOTCと呼んでいます。証券取引所と仮想通貨取引所も概念が異なる部分があり混乱することがあります。

今回は、ウォールストリートで使われている概念を基準として、証券と仮想通貨の比較を行って考察いたします。


OTCの反対語は何でしょう?

OTCは「Over The Counter」の略で相対取引とも呼ばれます。文字通り、「カウンター越し」ということで歴史的に証券会社のカウンターを通じて相対取引するものを指しています。反対語は「取引所取引」。この場合は証券(大抵の場合は「株式」だが、優先出資証券や転換社債の証券も含む)取引所となります。証券取引所は「公設取引所」と「私設取引システム(PTS)」に分かれます。東京証券取引所のような公設取引所は非常に取得が難しい金融商品取引所の免許が必要です。一方でPTSは認可事業で日本では2社が運営しています。

豆知識
実は上場しているのは「会社」ではなく「株券」
日本ではかなり稀ですが、一つの会社が2種類の株券を上場させることがあります


取引形態の概念はOTCと取引所(Exchange)しかありません。ルールも異なり、OTCでの株取引は5分以内に日本証券業協会(JSDA)に報告をする必要があり、これが時間との戦いで非常に緊張いたします。取引所取引は、空売り規制や自己・委託の区分など別のルールがあります。そして取引所取引はさらに、通常の多くの人が参加している取引時間が決まられた立会内取引と時間以外で取引される立会外取引に別れます。立会外取引であっても取引所内で行われているので、OTCとは呼ばれません。

証券においては取引ルールが異なるので、トレーダーは常に取引がOTCかExchange(取引所)かを区別して取引をしています。


板を暗記

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さて、今は日本ではなくなってしまいましたが、「場立ち」と呼ばれる、公設取引所の現場で証券会社からの注文を受ける人達がいました。
証券会社のトレーダーがマイクで場立ちに情報を伝えて、場立ちが取引所に発注する方式です。私もマイクで日経平均先物を発注したことがありますが、非常に早いので大変です。キャンセルのことを「off」と言いますが、offしないとマーケットが動いたら巻き込まれて望んでいない価格で約定します。


個人&機関投資家➡証券会社➡場立ち➡取引所⬅場立ち⬅証券会社⬅個人&機関投資家

このような感じで場立ちを介してOTC取引をしていたんですね。トレーダーも場立ちも頭の中で板(価格ごとの買い注文と売り注文の一覧表)を暗記していました。自分の発注を忘れるといきなり約定してビビります。ボスはそのビビった顔を絶対に見逃しません。(笑)

ネット証券ができる前は個人は電話で証券会社に発注していました。人手がかかるので手数料は約1%と高額でした。証券会社が勝手に顧客に代わり発注してしまうのが問題になった時代です。

マイクに叫ぶトレーダー

さて、投資銀行のOTCトレーダーは機関投資家といったお客さんの注文を営業を通じて執行します。相対取引とも呼ばれますが、自己ポジションとして自分が取引相手になるか、別のお客さんを探してくるのかは問いません。両方ともOTCです。

トレーダーはタレットと呼ばれる専用のシステムがありマイクに叫びます。その場で立ち上がり営業に直接叫ぶ場合も多々あります(笑)。時が立つにつれ、マイクがメールになり、チャットになり専用のプロ向け発注システムがでてきました。そうなると「取引所」と「OTC」でやっていることは同じです。画面に向かって銘柄を選んで価格と量を入力して発注します。ちょっと寂しいですね。

OTCトレーダーは東京証券取引所にも発注します。その場合は、OTCをやっている自覚はなく、「取引所」トレーダーとしてのルールを守って発注します。

結局、OTCは本来の意味から遠ざかって、公設取引所との区別がだんだん曖昧になってきました。もはや注文方式や取引の相手方で区別することはできません。結論としては、(公設 or 私設)取引所取引じゃないものをOTCと呼んでいるのが現状かと思います。(証券の場合)


証券会社はエコシステムの一部

実は証券会社と取引所だけでは証券(株や債権)の取引は完結しません。以下の図にあるように、清算機関、保管振替機構、銀行が裏でつながっているのですね。このように業務を分担して全体として取引(及び決済)が成立しているのが証券のエコシステムです。

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さて、ここで一つの疑問が発生します。仮想通貨(暗号資産)交換業者は公設または私設の金融商品取引所ではありません。仮想通貨交換業というライセンスの元に事業を展開しています。どのような仕組みでサービス提供しているのでしょうか?

実は、先程の証券のそれぞれの役割を多くの仮想通貨交換業者は一社で担ってます。なので「取引所」と呼ばれていますが、マッチングだけではなく、エンドの顧客の発注や残高管理、資産保全(ウォレット管理)までやっています。

そして、顧客の資産を動かすには2つの方法があります。自社の帳簿上で移転させる方式とブロックチェーンで移転させる方式です。いわゆる株券の移管手続き(株券を他の証券会社で保管してもらうこと)に当たるものが、ブロックチェーンでの移動になります。

東京証券取引所のような公設取引所は顧客の残高管理をしません。それは証券会社しか参加してないからです。証券会社が個人顧客の残高をチェックしてから発注します。

あまり良くないですが、証券会社同士だと決済が失敗することが多々あります。これをFailと呼びます。証券会社は株を1日で調達できるので、3営業日後の決済に間に合わせることができます。

仮想通貨事業者におけるOTC

先程、証券の場合は取引所取引以外はOTCという定義になっていると説明いたしました。公設または私設の金融商品取引所ではないし、且つ、すべての役割を一社で担っている仮想通貨交換業にはそのような定義が通用しません。

結論から言うと、仮想通貨のブローカーを通じて発注するものを「OTC」と呼んでいます。

ブローカー以外の人が暗号資産交換事業者のシステムを利用して発注している場合は、「取引所」取引と呼ばれています。ではブローカーは仮想通貨交換業者を専門に取引をする法人です。特に法律では決まっていないので、「自称仮想通貨ブローカー」ということになります。

これは証券の場合と定義が異なります。それは暗号資産交換事業者は、「取引所(マッチング)」「証券会社」「決済機関」「信託(カストディアン)」のすべてを兼ねていて「取引所」と「証券会社」の概念が分けられません。なので、OTC本来の意味に近い形で呼んでいるように思えます。

厳密には仮想通貨のOTCブローカーも取引所相手に仮想通貨交換業を行っていると思うのですが、現在はそのように解釈されないようです。

今回は、証券におけるOTCは時代とともに本来の意味での「カウンター越し取引(Over The Counter)」がなくなって区別がつかなくなったので、ルールベースで取引所取引と区別されていることをご説明いたしました。そして仮想通貨交換業におけるOTCはそれでも定義できないので、取引所相手の業者をOTCブローカーと呼ぶという曖昧な状態であることも分かりました。

証券において、国債や社債は現物の取引所市場がないのでOTCがメインです。株だとブロック取引をしたり、デリバティブ取引や仕組債をOTCで行っています。OTCトレーダーというのは取引所トレーダーも包含しており、機関投資家を相手にするOTCは取引金額が大きくリスクが大きいので一つのステータスのように感じた時もあります。それが時代とともに電子化が進み、OTCトレーダーと呼ばれる人は減り、トレーディングフロアに昔ほどの熱狂を感じなくなったのは少し寂しい気持ちになります。

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