原油先物のマイナス価格とは
WTIの5月限月の原油先物がマイナス37.63ドルで取引(大引けの価格)されたようです。マイナスと聞いてびっくりされた方が多いかと思います。売ったのにお金を払う状態です。普通は嫌ですよね(笑)
今回はマイナス価格とは何かご説明します。
West Texas Intermediate crude for May delivery fell more than 100% to settle at negative $37.63 per barrel. Meanwhile international benchmark, Brent crude, which has already rolled to the June contract, traded 8.9% lower at $25.58 per barrel.
原油先物とは?
原油先物(Futures)を買って先物の満期まで保有すると、その価格で買ったことが保証されます。買った後に上がったら得しますし、下がったら損です。当たり前ですね(笑)。そして先物の売り手が買い手に、事前に指定された規格の原油を届けます。変なものを届けられても困るので品質が決まっていて、受け渡す場所も決まっています。これを現物(Spot)受け渡し決済と呼びます。
今回注目していたのはWTI原油先物の5月限月ですが、先物は4月21日(アメリカ東部時間)が最終取引日なんですね。NYMEX(CMEグループ)で取引されている原油先物は「現物決済」なので、実際に受け渡しする日よりも事前に先物を終了させないと準備できないからです。売り手が「モノ」を持ってないなら、この間にいくらでも良いのでどこかで買ってきて、「先物の買い手」に渡さないといけません。
これは受け渡し場所がアメリカのオクラホマ州のクッシングという場所です。9000万バレルの貯蔵タンクがあり、パイプラインも周辺の州へつながっています。
現物を持っている商社が、価格リスクをヘッジするために先物をショートしたりします。
商品先物の理論価格
商品(コモディティー)の先物はコンビニエンス・イールドという保管料が発生します。コンビニとは、英語で「便利」という意味ですよね?イールドは利回りの英語です。
先物価格 = 現物価格×exp((金利+コンビニエンス・イールド)×期間)
となります。先物価格の方が高くなります。先物と現物が同じ価格だったらどちらを買いますか?現物の原油は保管するのにお金がかかります。なので先物の方が有利なので高いです。また金利が高いほど先物が高いのも同じ論理で、先物は証拠金取引なので買うにはお金はあまり必要ありませんが、現物は大きなお金を準備しないといけません。銀行から借り入れてるとすると金利がかかりますね。
通常は保管コストを現物の人に負担してもらっているので先物価格の方が高いのですが、今回は先物を持ってる人が、突然現物を渡されて莫大な保管コストを負担する可能性が上がったので価格が安くなったのですね。
デリバティブの価格はマイナスになり得る
さて、ここで権利義務関係をおさらいしましょう。売り手と買い手の両方が権利を持っている金融商品は存在しません。買い手が権利行使しようとしたら、売り手が嫌だと拒否できたら、何のための権利なのか分からないですね。
今回は原油の先物なのでお互いが義務を負っています。これがくせ者です。原油先物を売った人が原油を買い手に受け渡しをするのです。モノをもらえるので、別に困らないじゃないかと思いますが、必ずしもそうではありません。
実生活でも、動かないような中古車を自分の家の庭に配送されたら嫌ですよね?価値が無いような資産は、処分するお金をもらわないと引き取りたくありません。別の例では、リゾートマンションや中古のセスナは異常なほど安く買えます。ただし、毎月高額の維持費を取られます。なので維持費が払えない売り手はいくらでも安く手放そうとするのですね。
これを同じことが今回原油先物で起こりました。クッシングのオイルタンクが満タンになってしまったのです。ニュースでは120%までタンクに貯蔵していて、もうこれ以上入らないといった状況だったのでしょう。
パイプラインでオクラホマ州周辺の州に油送しようとも、そこまでの需要がないそうです。
売り手は持ってる原油をクッシングのタンクに入れようにも、入れられません。何とかしなければいけないので、買い手にただでも良いので売りたいという状況になりました。そして原油先物はお金を払って引き取ってもらう、マイナス価格になったのです。
CME/NYMEXのルールと今後
CMEのルールブックを読むと、売り手と買い手が合意すれば、物理的な移動なしに、所有権を移動させても良いみたいです。
売り手のオイルがクッシングの外にあるなら、そこで受け渡しをすればよいが、法外な保管料を取られそう。不透明なのでマイナスでも売ってしまえという売り手が現れたのかと思います。
CMEのシステムはこれを見越してマイナス価格に事前に対応していました。すごいですね。
「Recent market events have raised the possibility that certain NYMEX energy futures contracts could trade at negative or zero trade prices or be settled at negative or zero values, 」
ただ大引けが-37.63はいくら何でも冷静さに欠けているかと。原油の輸送量は場所にもよりますが、20ドルくらいのイメージなので-37.63ドルで買って輸送すれば儲かる気もしてます。引けの価格で証拠金を清算するので、評価損益が大きくでて投資家によっては追証になる可能性があります。
これは投機的な売り手が、買い手を追証に追い込むロングスクイーズという状況な気もしています。
今日、アメリカ東部時間4月21日が原油5月満期の最終取引日ですが、恐らく、プロはOTC(相対)で先物が満期を迎えた後も取引しているかと思います。
プロ同士の戦いはまだまだ続きますが、状況が一段落したら市場は冷静になるのかもしれません。原油先物がマイナスの価格になるという歴史的瞬間を垣間見たことはずっと記憶に残るでしょう。
※Twitterで価格がマイナスになる可能性を事前に言及しておきました。
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