9月にビットコインが法定通貨になったエルサルバドル 2021年のできごと
2021年6月に南米エルサルバドルにおいてビットコインを米ドルに加えて法定通貨とする法案が可決され、9月に施行されてから3か月、これまでエルサルバドルでは何が起こり、どの程度ビットコインが法定通貨として浸透しているのでしょうか。
法定通貨になった4日後の状況は9月にこちらのnoteにまとめています。
本件、定点観測的にまとめていこうと思っているので2021年年末バージョンを書きました。
Bitcoinファンド利益による動物病院、学校の建設
2021年10月10日にはブケレ大統領により突然「ビットコイン価格が上がって儲かったので利益で動物病院作るよ」という件が発表されました。
エルサルバドル政府はFIDEBITCOINという信託(国有企業Chivoが運営、160億円規模)を運用し米ドルとBTCを保有しており、この時期の価格高騰に伴いUS$4milの含み益が発生。会計上はドル建で計算するため、ChivoはBTCを売ることなくを維持し利益分でを動物病院設立へ、ということでした。
11月には動物病院の建設が進んでいる様子と、追加の利益で学校も作る予定と発表。
含み益でこういった公共投資を行っていくのはビットコイン法定通貨化の直接的な便益ではないのですが、こういったことがあると国民がビットコインに対して好意的になっていくことが予想され、この辺はブケレ大統領は非常にうまいなと思います。
Bitcoin Weekの開催
エルサルバドルでは2021年11月15日ー20日をBitcoin Weekとし、LABITCONFというイベントが開催されました。
こちらがイベントのプログラム。ハッカソン、Lightningに関する技術カンファレンス、法律相談、ビジネスマッチ、NFT Live artなどが開催された模様。
イベント期間中はイベントでエルサルバドルを訪れた人たちがビットコイン決済をして喜ぶ様子でTwitterのTimelineが埋め尽くされていました。
こちらはエルサルバドルに到着して名物ププサ(パンケーキみたいなもの)をLightning決済するエンジニア氏。
エルサルバドルのマクドナルドにはLightning決済用の液晶パネルが置かれるようになったみたいです。9月にはレシートのQRコードをウォレットで読み取って支払っていましたが進化している!まだ動きがもっさりしていますが・・・。
Bitcoin City構想、ビットコイン債の発表
Bitcoin WeekのLABITCONFの最後11月20日に、ブケレ大統領から発表されたのが「Bitcoin City」構想です。こちらの写真はブケレ大統領が「いろいろ税金がゼロのCityだぜ~」と発表している様子。
こちらの記事↓に詳しいですが、内容としては
エルサルバドル・フォンセカ湾沿いの火山付近にコインのような円形の都市を建設。この都市は住宅や商業施設、空港や鉄道サービスを備えた本格的な大都市で、全ての経済活動がビットコインで行われる予定。
さらにこの都市内では付加価値税(VAT)以外の税金が課されないとのこと。火山近くに地熱発電所も建設され、ビットコインマイニングや都市の電力をまかなうために使用される予定です。
同時に発表されたのが、「ビットコイン債」の発行です。
Bitcoin City建設の準備として10億ドルの「ビットコイン債」を発行し、資金使途の半分はビットコインマイニングや都市エネルギーの構築、半分はビットコインの購入とするとのこと。
発行されるビットコイン債はドル建ての10年債で最初の5年間には6.5%の利子を支払い、その後5年のロックアップの後、追加の利子を支払う、というストラクチャーを想定しているようです。
こちらの記事によると本件は2022年の発行を予定しており、現状3億ドルのソフトコミットがあるとのことですが、Bitfinexからのオーダーがそのうちほとんどとのこと。
普通の債券投資家が国債としてこのBondを買うことは難しいと思うので、ビットコイン債が無事に発行できるかは非常に注目されます。
(ビットコインが法定通貨化した時点ではエルサルバドルはIMFと10億ドルの融資交渉中と報じられていました。ビットコイン債の金額がこれと同じなのは偶然なのか・・・?)
国民へのウォレットの浸透
pwcがエルサルバドルのビットコイン法定通貨採用についてのレポートを出しており、2021年10月時点の各種統計値は以下の通りになっています
300万人の国民が国のビットコインウォレット「Chivo」を利用している。これは同国民のほぼ50%にあたる
1日平均200万ドルの送金がChivo Walletを通じて取引されている
Chivo Walletでは1秒間に平均6.5万件以上の取引が行われている
Chivo ATMで1日平均1.4万件以上の取引
9月7日以降、エルサルバドルの人々は、ChivoウォレットのATMから引き出している金額よりも多くの現金を(ビットコインを購入するために)ATMに預けている
エルサルバドル政府は、Chivoウォレットで支払うと燃料が割引になるなどの取り組みを行い、ビットコインの普及を強力に推進している
pwcのレポートですが上記の数字の出所はすべてブケレ大統領のTweetとのことでややほんと・・・?という気持ちになりましたが、町の声としてこんな動画もありました。
Chivo Walletをダウンロードすると30ドルもらえる。遠くの町からも顧客が来て売り上げが25%増えた(商店経営の女性)
仕入れ先とのお金のやり取りがスムーズになった(企業の決済関連に携わる男性)
物理のお金は盗まれたら終わりだがChivo Walletはパスワードで守れるので自分で自分のお金が管理しやすくなった(女の子)
これまで現金での支払いのみだった社会にいきなりMobile Suicaが導入されたような感じなのかなと思っており、これはシンプルに便利になったと感じる国民が多いのではないでしょうか。
この期間のビットコイン価格の推移と「Buy the Dip」
エルサルバドルでのビットコイン法定通貨化の後は、ビットコインが下げ局面になるとブケレ大統領が「Buy the Dip」(安いところで買うぜ!)と言いながらビットコインを買い続けていたことも話題となりました。
過去のブケレ大統領のTweetや過去ニュースをさかのぼり調べたところ、以下のタイミングでそれぞれビットコインを買っており、これまでに1,391BTCをUS$70.5mm(1ドル=115円で81億円相当)で買っており、平均取得単価はUS$50,700(1ドル=115円で583万円相当)でした。
12月21日の購入前に以下の報道もあり、当初の400BTCはもうちょっと前で買っていたのかもしれませんが、年末時点ではちょっとロスっているパフォーマンスの模様です。
IMF、中央銀行の懸念
こういった動きは国際通貨基金(IMF)、中央銀行からは懸念されています。
IMFは11月22日にエルサルバドルに対する2021年の4条協議(経済審査)の結果を発表し、「ビットコインを法定通貨として使用すべきでない」との見解を示しています。
「ビットコイン相場の振れ幅の大きさを踏まえると、法定通貨としての使用により、消費者保護や金融の安定性に大きなリスクが生じ、(国家)財政に偶発債務も発生する」と指摘し、「ビットコイン関連法の射程を狭め、新たな決済システムに対する規制と監督を強化するよう推奨する」と述べました。
また、11月25日にはイングランド銀行(英中央銀行)のベイリー総裁はエルサルバドルがビットコインを法定通貨に採用したことについて、消費者がボラティリティーで恐らく苦境に陥るだろうとして懸念を示しました。ケンブリッジ大学で行われた質疑応答で同総裁はビットコインについて、「国の通貨として採用されることは心配だ」とした上で、「何より懸念されるのはエルサルバドル市民が保有するビットコインの性質やボラティリティーを理解するかだ」と述べています。
こちらの記事のように「マーケティング手法としてはうまくいっているが、ボラティリティが高すぎて決済手段としては失敗するだろう」というのが現在の太宗の見方のように思います。
エルサルバドルとブケレ大統領のビットコイン以外の側面
この界隈にいるとエルサルバドル=ビットコインにベットしてる国、という印象を持ちがちですがこれは一面にすぎません。ブケレ大統領のTwitterアカウントをフォローすることでこの国の色々な情報が入るようになってきたのですが、
輸出の成長率が南米で最も高かったり(前年比+48.1%)
ブケレ大統領のコロナ対策を評価する人が96%だったりします。
40歳のブケレ大統領は自分のことをTwitterでは「エルサルバドルのCEO」と言っており、9月のビットコイン法定通貨化から打たれた施策の多さを見てもベンチャー企業のようだと感じている人は多いのではないでしょうか。
もちろんビットコイン法定通貨化、及びそのあとの彼の施策には賛否両論あると思いますが、平均年齢28歳(若い!)の成長国家として引き続き注目していこうと思います。